羊を逃がすということ

あなたの為の本が、きっと見付かる

書評

【書評】「理不尽な進化」の先にあるのは、人間か大腸菌か【吉川浩満】

「人間と大腸菌、どちらが進化した生き物だと思う?」 大学の頃、留学生の友人にこんなことを尋ねられた。当時の私は相手がそう答えさせようとしているのだなと勘繰りながらも、「人間」と答えた。私はてっきり「残念、大腸菌です」という答えが返ってくるの…

【書評】「ツミデミック」とパンデミックの受容について【一穂ミチ】

新型コロナウィルスとして世間を騒がせたCOVID-19は、初めは中国で発生した新型肺炎という、所謂対岸の火事としてネットニュースの片隅に掲載され、それから瞬く間に世界を覆いつくした。 当時の私は、大学時代の下宿をそのまま拠点とし、飲食業でアルバイト…

【書評】「百年の孤独」は如何にして孤独であったか【ガルシア=マルケス】

私と弟がまだ小さかった頃、近所の田んぼでカエルを捕ったことがある。 どうしてそんなことになったのかは覚えていないけれど、とにかく捕って捕って捕りまくった。きっと子供心に狩猟本能をそそられたのだろう。だとしても、帰る間際に逃がしてやれば良いも…

【書評】月ぬ走いや、馬ぬ走い【豊永浩平】

方言は、一つの武器である。 それは標準語によるテキストが溢れかえり、ともすればあらゆる表現が均一化されるなかで、ある種の本音を担保するものとして機能するからである。しかしこれをコントロールするのは難しい。 私は大阪出身なので、普段は大阪弁を…

【書評】バリ山行【松永K三蔵】

大学の頃、お世話になった教授が登山好きだった。 何かとゼミでも登山が企画され、私はそれに付き合って(半ば強制的に)山に登る経験を得た。私は理系の学部に所属していて、実験室では様々な器具を扱った。実験中にそれらの器具を破損してしまった場合、う…

【書評】ザリガニの鳴くところ【ディーリア・オーエンズ】

話題になった頃に買ったものの、読むタイミングを逃し続けていた本である。先日Netflixで映画化作品の一部を見掛け、読んでみようという気になった。厚めの本であるが、読み始めるとぐんぐん吸い込まれるようにページが進んだ。 帯に書かれた販促用の文言は…

【書評】きりぎりす【太宰治】

キリギリスが怖かった。 虫全般苦手であるが、大半に抱く感情は恐怖ではなく不快感である。ところが、キリギリスという昆虫は怖い。特にその顔が怖いのだ。 その顔、まずは面長である。おたふく顔のような受け口でありながら、極端に小さな目がアンバランス…

【書評】なめらかな社会とその敵【鈴木健】

書店で本を買い求めるとき、「ジャケ買い」ならぬ「表紙買い」するのは、本読みとしての密かな楽しみである。前情報に踊らされず、パッとその場のインスピレーションで本を買う。結果として外れを引く経験を何度もしたが、不思議なもので慣れてくると自分に…

【書評】カフカ断片集【カフカ】

フランツ・カフカについて 私が初めてフランツ・カフカに触れたのは、高校時代の話である。当時軽音楽部に所属していた私は、自分のバンドメンバーのベース担当がカフカに似ていたので、興味を持ってかの「変身」に眼を通した。 もっとも、それまでもカフカ…

【書評】街とその不確かな壁【村上春樹】

村上春樹について その昔、シェイクスピアのある戯曲を読んだ時、そこに奇妙な違和感があることに気が付いた。前半と後半で、ある登場人物の立ち回りが違い過ぎたのだ。それも特に何の説明もなく。 恐らくは、シナリオの都合上その役割を変更せざるを得なか…